大好きな作家の永井路子さんが1月27日に亡くなられました。
高校生の頃、歴史のテストで点数のとれなかったわたしが、とりあえず歴史小説でも読んでみよう、と手に取ったのが、永井路子さんの小説でした。
それまで、読書は好きだったけれど、歴史に関しては祖父が好きだったチャンバラ系の時代劇や男くさい大河ドラマしか知らなかったわたしは、なかなか歴史・時代小説というものに手をだせずにいたんですよね。
そんなわたしの人生を一変させ、今では時代小説や歴史物語が大好き人間となったのはまぎれもなく永井路子さんの作品に出会えたからだと思っています。
女性が主人公のお話
短編で読みやすそう、なおかつタイトルに惹かれて購入した1冊。
『歴史をさわがせた女たち』
なにこれ、面白い!と一瞬で引き込まれました。
歴史、と聞くと戦国時代ばかりが思い浮かんだりもして、なんか戦うことばかりが注目されているイメージだったのが、これを読んで様々な時代の妄想が始まりました。
歴史の教科書において、女性の活躍ってなかなかないんですよ。
あったとしても淡々と出来事が書かれてあるだけで。
もちろん、それが本当かどうかは今となっては知ることもできないし、史実の上から想像できる小説だということはわかっているのですが、永井さんが書かれる小説を読んでいると、本当に、それが事実だったんじゃないか、と思わせられるように想像できてしまう。
すごいなぁ、と。
この本がきっかけで、永井さんの小説をとりあえず買いあさりました。
戦いに視点をあてていない
けっこう衝撃を受けた、というか…、歴史を動かす女性ってかっこよすぎる、と思ったのが、
『北条政子』
です。
有名な源頼朝の妻、北条政子の物語ですよね。
大河ドラマにもなっていましたが、もともとわたしはこの源平合戦の時代がものすごく好きなのですが、これを読んでますます大好きになってしまいました。
この時代を舞台に書かれているのは他にも『波のかたみ』があります。
これは平家側の、平清盛の妻、平時子の物語です。
源氏と平氏、棟梁の妻、としての立場で、やっぱり源氏側の見え方、平氏側の見え方、違うんですよね。
やっぱりこれは両方読んでこそ、物語として完成するんじゃ?と思うくらいです。
もちろんどちらだけ読んでも面白いですが、両方読むことで面白さは何倍にもなります。
頼朝はいわずもがな、平家との戦い後、伊豆に流され、その後挙兵。
征夷大将軍にまでなったお方。
ある意味、主人公的存在ですよね。
ですが、そこに視点を向けるのではなく、妻の立場である北条政子という女性に注目しているわけです。
伊豆の田舎娘だった北条政子がどのように成長し、夫を支え、ついには尼将軍とまで呼ばれるようになったのか。その数奇な人生をここまで面白く描いている作品ってなかなかないと思います。
もちろん、北条政子を主人公にした作品は他にもあるのですが、わたしはやっぱり永井路子さんが描かれたこの『北条政子』が一番面白かったです。
おごうの人生が興味深い
永井路子さんの作品で、なるほどー、と思わされた作品はたくさんあるのですが、中でも、悲運の三姉妹として知られるお市の方の娘たち、浅井三姉妹と呼ばれる、お茶々、お初、おごうを描いた作品。
主人公はおごうなのですが、永井路子さんのおごうの人生のとらえ方が他の人たちとは全く違うのです。
おごうは、言わずとしれた、徳川家康の息子、徳川2代将軍、徳川秀忠の正妻です。
しかも、秀忠とは三度目の結婚。全部憎き豊臣秀吉が決めた政略結婚。これまたすごいですけどね。
おごうにとって豊臣秀吉は両親の敵でもありますからね。その男に勝手に夫を決められ、三度も結婚させられるって…いや、それをいったら敵に嫁ぐお茶々もすごいけど…。
今の感覚ならどんな気持ちで嫁いだんだろう…。
と思うんですよ。武家に生まれたからには、覚悟の上、という時代ではあったと思うのですが、やっぱり、ひとりの女性です。様々な思いはあったと思うのです。
大河ドラマでは純粋なおごうが運命に振り回されながらも、元気に明るく乗り越えていく姿が描かれていたかと思うのですが、
永井路子さんの描かれるおごうは全く違いました。
すべての運命を与えられるがままに受け入れてしまうちょっと何を考えているかわからない女性。
水の流れに逆らわない女性とでもいうべきか。
おごうは、徳川家の妻となったことで最終的には長女の茶々(秀吉の側室になったため)とは敵になります。
この浅井三姉妹は仲が良かったとか、仲が悪かったとか、まぁいろいろ言い伝えはありますが、わたし自身は、仲がいい時ももちろんあったと思うけれど、やはり姉妹といえど考え方などは違うので、やっぱりそれぞれにしたたかにお互いを利用する部分はあったと思っています。
女だからね!
おごうは将軍の妻となり、三代将軍の母となります。
歴史だけみれば、彼女はしたたかに生きたようにも見えますが、実際のところはわからないですね。
そういう部分を永井路子さんの作品で読むと、なるほどなぁ…と思わされるわけです。
ちなみに絶世の美女として伝えられている母親のお市の方が主人公の作品もあります。
これも面白いです。
お市の方といえば織田信長の妹。
兄と夫の間で板挟みになり、落城、そして二度目の結婚、二度目の落城という…彼女もまた波乱な人生を送った女性です。
素敵な作品と出会えた奇跡
永井路子さんの小説はほぼほぼ全部読みつくしていると思いますが、本当にどれも面白いです。たぶん語りだすと止まらないくらい。
永井路子さんの作品の中ではめずらしく男性、藤原道長が主人公の『この世をば』という作品も他の人とは違う見方で描かれているので面白かったですし、
平安時代以前の時代を舞台にしたものもあって、様々な時代を舞台に描かれているので、時代順に読んでいくのも面白いし、学びとしても役に立ちます。
高校生の頃は、教科書で名前が出てくると、永井路子さんの小説を思い浮かべて妄想ばっかりして、学びに役立てたりもしていましたが、今は純粋にストーリーを楽しんでいます。
もう一度改めてじっくりとすべての作品を読んでみようと思っています。
こんな素敵な作品に出会えたこと本当に本当に感謝しています。
哀悼の意をこめて。